緑内障

緑内障は視神経が障害され視野障害が起こる疾患です.わが国では40歳以上では17人に一人が緑内障患者と言われています. 日本での失明原因の第一位を占め,末期まで自覚しないことが多く,現在の治療目的は視機能障害の進行抑制であり,改善ではありません. 従って,早期発見,早期治療が重要です.

緑内障は様々な疾患から成り立っています. 共通していることは,進行性であること,視神経症による視野障害で,眼圧が重要な因子であることです. 分類によって,先天性と後天性,解剖学的に開放隅角と閉塞隅角,原因疾患の有無によって原発性と続発性に分けられます.

眼圧は房水(眼球の中の水)の眼内への流入と眼内からの流出によって決まります. 下図に示すように,房水は虹彩の後ろにある毛様体から眼内に流入し,水晶体と虹彩の間を通り,虹彩と角膜との境にある隅角から流出します. 解剖学的に隅角が広いか狭いかによって解放隅角と閉塞隅角に分けられます.

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房水の流れ

原発解放隅角緑内障

隅角が広く(下図),原因疾患が無い(原因が分からない=「原発性」)原発解放隅角緑内障は最も多く見られる緑内障です. 原発解放隅角緑内障のうち,眼圧が正常で起こるものを正常眼圧緑内障(低眼圧緑内障)としてサブグループとして呼ぶことがあります.

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解放隅角

緑内障の症状は視野障害ですが,徐々に進行するため,殆どは末期まで自覚症状はありません. 近視,家族歴で緑内障或いは高眼圧症がある方,片頭痛,糖尿病,高血圧,心臓病で危険率があるとされています.

緑内障による視野障害は網膜神経節細胞が死ぬことによって起こります. これまで,診断として眼圧測定,視野検査,眼底検査,隅角検査がなされていましたが,新たに,光干渉断層計(OCT)検査によって, この網膜神経節細胞の厚さを測定することができるようになりました.このOCT検査によって,早期の緑内障を発見と,緑内障の進行を診ることができるようになりました.

治療は眼圧を下げる事です. 基本的に,まずは点眼による薬物療法です. 点眼薬では眼圧降下が十分に得られず,視野障害の進行が見られる場合は手術療法, レーザー治療などがなされます.

正常眼圧緑内障,低眼圧緑内障

原発解放隅角緑内障のうち,眼圧の上昇が見られない(21mmHg以下)のものを正常眼圧緑内障或いは低眼圧緑内障と呼びます. 日本人では最も多いと言われています.診断は原発解放隅角緑内障と同じです.

正常眼圧緑内障の治療は他の緑内障と同様,眼圧を下げることであり,これによって,視機能障害の進行は抑制されることは統計学的に分かっています. しかし,これは,あくまでも統計学的な結果であり,眼圧が低くても進行する患者さんはいます. 特に,正常眼圧緑内障では,点眼薬によって既に眼圧が非常に低いにもかかわらず,視野障害の進行がみられる患者さんがいます. そういった患者さんに対して,緑内障の神経保護効果の治療薬として, 交感神経α2受容体作動点眼薬(アイファガン®),カルシウム受容体遮断薬,HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)があります.当院ではこれらの神経保護効果の治療も行っています.

原発閉塞隅角緑内障

原発閉塞隅角緑内障は隅角が狭く(下図),原因疾患が無い(原因が分からない=「原発性」)緑内障です. 原発閉塞隅角緑内障は,房水の出口が閉まる(閉塞する)ことによって急激に眼圧が上昇する緑内障発作が起こり,視野障害を引き起こします. 原発閉塞隅角緑内障では,この発作が起こっていない視野障害の見られない状態であるPACS(隅角は狭いが閉塞は見られない(下左図))とPAC(隅角が狭く一部分が閉塞している(下右図)) も原発閉塞隅角緑内障(PACG)の一分類として扱われています.

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閉塞隅角

原発解放隅角緑内障が近視眼で見られるのに対して,閉塞隅角緑内障は遠視眼で見られます.また,家族歴がある方で危険率は上昇します.

症状はPACS,PAC及びPACGで緑内障発作が起こっていない場合は無症状です.緑内障発作時には,眩しさ(光の周りにハローが見える),眼痛,頭痛を訴えます.発作は瞳孔が広がる暗い場所である夜に起こることが多く,頭痛を訴えて脳神経外科を受診することがよくあります.

治療はPACSではレーザー虹彩切開術(LI)です. これ以外に,白内障手術によって水晶体の代わりに人工水晶体を挿入することによって隅角を解放する方法やレーザー隅角形成術(LGP)があります.PACSの多くは高齢者でみられ,既に白内障が見られる場合は,白内障手術を行っています.

PACとPACGの治療も非発作時ではPACSと同様です. PACとPACGで緑内障発作が起こった場合は,多くはグリセロールやマンニトールの点滴下でのレーザー虹彩切開術(LI)や手術による虹彩切開術が必要になります.

上記に治療によって解放隅角になっても,眼圧が十分に下がらなかったり,視野障害の進行が見られる場合は,原発解放隅角緑内障の時と同様な,点眼薬による治療が必要になります.