中心性漿液性網脈絡膜症

中心性漿液性網脈絡膜症は,略して中心性網膜症或いは中心性網膜炎とも呼ばれます.

網膜の外側に脈絡膜があり,脈絡膜が網膜への栄養補給と網膜の老廃物の排出を行っています. 網膜のうち,最も外層の網膜色素上皮層が両膜間のバリアーの役目を果たしています.中心性脈絡網膜症では黄斑部で網膜色素上皮層のバリアー機能が低下し,局所的に網膜の下に液体が溜まる,漿液性網膜剥離が起こります.霧視,ゆがみ,中心部分が見えなくなるといった症状が出現します.

青年男性に多く,心理的,生理的ストレスが誘因の一つだと考えられています. また,自己免疫疾患などでステロイド内服の副作用で起こることもあります.

日本での治療として末梢循環改善薬などの内服投与とレーザー治療(網膜光凝固術)があります. レーザーによって,脈絡膜から網膜への漏出を止めることはできますが,照射部位は見えなくなります. 自然治癒がしばしば見られ,内服投与による経過観察を行います. レーザー治療は数か月たっても自然治癒が見られず,漏出部位が黄斑の大切な部分から外れている場合に限られます.日本眼科学会 中心性網脈絡膜症参照.

下図はステロイド内服で見られた当院での症例です.左が初診時,右が内服投与1か月後の光干渉断層計(OCT)写真です.

中心性漿液性網脈絡膜症
中心性漿液性網脈絡膜症

再発性がみられることがあります.50歳以上の患者さんでは類似疾患である加齢黄斑変性が疑われ,この場合は治療方法が異なり、抗VEGF療法が第一選択です.加齢黄斑変性は漿液性網脈絡膜症とは異なり,漏出の原因として異常血管の存在があり,両者は異なった疾患ですが,OCT所見だけでは判別が困難なことが多く,50歳以上では経過観察が必要です.

ここで述べた治療方法は最善の治療方法ではありません.これ以外にもいくつかの方法があります.現在,世界的に最も注目されている治療は光線力学療法(PDT)マイクロパルスレーザーです.

光線力学療法(PDT)

自然治癒が見られず,慢性化した場合,最も予後の良い治療は光線力学療法(PDT)です.これは光感受性物質という薬剤を点滴して,これが網膜下に貯留させて,レーザーを照射する治療です.レーザーは網膜ではなく,網膜下のみに吸収されるため,網膜は障害されません.しかし,保険適応外であり,非常に高額(1回あたり35万円以上)であること,通常入院が必要であること,光感受性物質の副作用として光過敏症が起こるため,点滴後5日間は直射日光を避ける必要があることなど幾つかの問題点があります.(PDTの費用は以下の通りです.PDTの適応疾患は加齢黄斑変性のみであるため,加齢黄斑変性の場合は健康保険が3割ならば以下の金額の3割になります.)

PDTの費用
レーザー手技料 159,600円
ビスダインの薬剤費 187,663円
合計 347,263円

実際にはさらに入院費,検査料,診察料がかかります.

マイクロパルスレーザー

マイクロパルスレーザーは網膜,黄斑疾患に対して従来型のレーザーに代わる新たな治療です.従来型レーザーとは異なり,網膜下のみを照射し,網膜傷害がありません.従って,従来型でのレーザーでみられる照射部位が見えなくなるといった副作用は存在しません.従来型レーザーでは禁忌である中心窩での漏出がある場合もマイクロパルスレーザーでは適応となります.しかもマイクロパルスレーザーの費用と適応疾患は従来型と同じで,健康保険内です.(健康保険が3割負担の場合は4万円台です.)
当院で,このマイクロパルスレーザーを導入することになりました.

電解質コルチコイド拮抗薬

日本では大学病院,専門病院を含め,この治療は全く行われていません.しかし,アメリカではマイクロパルスレーザーと同様,非常に注目されている治療です.漿液性網脈絡膜症は様々な要因があり,メカニズムが不明な疾患ですが,副腎皮質機能亢進と最も強い相関があります.アメリカでは,この副腎皮質機能亢進による脈絡膜の透過性亢進と二次的な色素上皮機能不全が漿液性網膜剥離を引き起こすと仮説が立てられてます.そして,この副腎皮質機能亢進に対する治療として,電解質コルチコイド拮抗薬が有効だと考えられています.この薬は日本では高血圧薬の適応ですが,漿液性網脈絡膜症の適応とはなっておらず,当院では,患者さんの全身状態をお聞きして,内科と相談しながら,この電解質コルチコイド拮抗薬を行っています.