近視の進行防止

都市部に住み、勉強などの近業時間が長く、スポーツなどの屋外活動が少ない方が多いことが分かっています。また、太陽光を浴びることが近視の進行抑制に大切だと考えられています。従って、勉強などの近業作業を短めにし、屋外活動の時間を長く取ることですが近視の進行抑制に有効だと考えられていますが、現実には難しく、たとえ、これらの環境に置かれても近視が進行してしまうこともしばしば見られます。 強度近視による視覚障害は日本の失明原因の第5位になっており,強度近視の予防として小児期からの近視進行防止が重要です.科学的研究によって小児の近視の進行防止に有効だと分かっている方法として、低濃度アトロピン点眼薬、就寝時コンタクト(オルソケラトロジー)、二重焦点眼鏡(=軸外収差抑制眼鏡(MCレンズ等))、特殊非球面コンタクトレンズがあります。当院では最も有効性が証明されている低濃度アトロピン点眼薬とオルソケラトロジーを行っています。

以下のグラフはそれぞれの有効性の比較です(眼科グラフィック vol 5 2016 p452-457より)。値が大きいほど有効です。アトロピン点眼薬が最も有効ですが、副作用の散瞳効果のために、見えにくくなり、中止すると近視が進行するリバウンドがあるため、実際には使用することができません。次に有効があるのが、低濃度アトロピンとオルソケラトロジーです。低濃度アトロピンはアトロピンを100倍希釈してあり、副作用とリバウンドは殆どありません。低濃度アトロピンとオルソケラトロジーに次いで、有効なのは特殊非球面コンタクトレンズです。特殊非球面コンタクトはアメリカで売られていますが高額で、日本では販売されていません。通常のコンタクトレンズの中にも、近視進行抑制があると考えられているものがあり、当院で取り扱っています。オルソケラトロジーで非適応の方でも装用可能です。

低濃度アトロピン点眼薬

アトロピン(1%)点眼薬は散瞳薬の一つで進行防止に最も有効だと分かっています。しかし、副作用として散瞳するために眩しさ、見えにくさなどの眼症状は必発で、全身症状として顔の発赤、発熱が起こることがあります。これらの副作用が少ない、低濃度のアトロピン(0.01%)点眼薬でも近視進行抑制があることが分かり、最近の研究では、最も近視進行抑制があるのはこの低濃度アトロピン点眼薬だとされています。子どもの近視の進行を予防、0.01%アトロピン点眼の効果(論文の日本語要約) マイオピンと呼ばれる低濃度アトロピン点眼薬が、シンガポールから輸入され、点眼薬と検査を自費で行っている眼科が増えているようです。当院では全く同じ低濃度アトロピンを手術室のクリーンルームで作製し、点眼薬と近視の進行を調べるための目の大きさ(眼軸長)の検査は無料で行い、視力検査などは保険内で行っています。 日本では同じ散瞳薬であるミドリンMが処方されることがあります。ミドリンMは持続時間がアトロピンと比べて短く、睡眠前に点眼しても、散瞳は睡眠中のみですので、副作用はありません。しかし、ミドリンM点眼薬が近視の進行防止に有効との報告はありません。

オルソケラトロジー・就寝時コンタクト

近業時間が長いことによって近視が起こる機序として、近くの物のピントが眼底の網膜よりも後方に合うために、この近くの物を網膜にピントを合わせるために、眼球が後方に伸展し、このことによって、遠くの物が網膜よりも前にピントが合うことが考えられています。(伸展した眼球はヒトでは元の大きさには戻らないことが分かっています。従って、トレーニングによる視力回復はあり得ません。)

近視化の機序
近視化の機序

  通常の眼鏡を装用した場合、中心部分を網膜にピントが合わせると、周辺部は網膜よりも後方にピントが合ってしまいます( 図1)。このことによって通常の眼鏡を装用すると近視が進行すると考えられています。

これに対して、就寝時コンタクト(オルソケラトロジー)では角膜のカーブが変化し、網膜の中心の周辺部は網膜よりも前方にピントが合うので(図2)、近視の進行防止に有効だと考えられ、臨床研究で有効性あることが分かっています。

オルソケラトロジーは全て健康保険外(自費)となります。通常のコンタクトレンズの検査が保険内であるのに対して、オルソケラトロジーは保険外となりますのでご注意ください。

眼鏡装用による近視化
図1.眼鏡装用による近視化
オルソケラトロジーによる近視進行抑制
図2.オルソケラトロジーによる近視進行抑制

当院では東レ社のナイトレンズ(ブレスオーコレクト)を採用しています。ブレスオーコレクトの特徴と当院での流れは以下をクリックしてください。

メーカーUniversal Viewのホームページ
当院でのナイトレンズ(ブレスオーコレクト)の特徴と流れ


特殊非球面コンタクトレンズ

コンタクトを装用することによってオルソケラトロジーと同様に中心から外れた部分の度を変えます。効果はオルソケラトロジーには落ちますが、オルソケラトロジーが不適応の場合も装用可能です。ただし、通常のコンタクトに比べると高額で、日本では販売されていません。通常のコンタクトの中にも近視進行抑制があると考えられるものがあり、当院で取り扱っています。(国際特殊レンズシンポジウム参照。)費用は通常のコンタクトと同様の健康保険内です。

二重焦点眼鏡、軸外収差抑制眼鏡(MCレンズ)

周辺部も網膜にピントが合うように、中心から外れた部分の度を変えてあります。中国で研究されており、有効性はありますが、軽度です。

小児の近視を治すことはできるのか?

上記以外に、視力回復トレーニング等、視力がトレーニングで治ると謳う器具、施設が存在しています。いかがわしい施設に対しては平成14年に公正取引委員会からの警告文がありますが、その後も同様な施設があります。また、「目がどんどん良くなる本」「視力回復ミラクル・アイ」など、明らかに嘘な本は放置されています。これらに騙されないよう注意してほしいと思います。
近視は遠近を見る時のピント調節の問題ではありません。眼球が大きくなり、網膜が後方に移動してしまったために、遠くの物のピントが網膜よりも前方に合うためです。人間の眼球は大きくなってしまったものを小さくするとは出来ないことは分かっており、移動してしまった網膜を元の位置に戻すことはできません。従って、トレーニングや器具によって近視を治すことはできません。
近視の治療としては角膜を削るレーシック、水晶体を人工レンズに入れ替える白内障手術、水晶体の前にレンズを挿入する有水晶体レンズ(ICL)挿入がありますが、当然、小児への適応ではありません。