睫毛の毛根周囲の炎症です.原因として①黄色ブドウ球菌の細胞壁への異常反応,②脂漏性皮膚炎,③マイボーム腺の機能不全(ドライアイ参照)があります.これらはオーバーラップすることもあり,必ずしも区別することはできません. 慢性眼瞼炎が二次的に眼瞼,結膜や角膜に疾患を引き起こすことがあります.
ブドウ球菌性眼瞼炎は睫毛の根部にフケ様の付着物があり(図1),しばしば,乳頭結膜炎,結膜の充血,眼瞼縁の不整による睫毛の脱落,睫毛乱生, ブドウ球菌過敏症である辺縁角膜炎やフリクテン,ドライアイを引き起こします.
脂漏性皮膚炎は顔面や胸部にも見られます.
マイボーム腺機能不全(マイボーム腺炎とも呼ばれる)の原因として,細菌のリパーゼによって脂肪酸が産生させ,これによってマイボーム腺から油性分泌物が腺内で固まることが考えられています. マイボーム腺の機能不全によって涙の油層がオイリー或いは泡状(図2.)になり,ドライアイ,乳頭結膜炎,点状表層角膜症や角膜表層びらんを引き起こすことがあります.
眼瞼縁の発赤,腫脹,ヒリヒリ感,痛み,異物感,流涙などの症状を訴えます.
治療は日本の眼科医とアメリカの眼科医で違いがあります. 日本の眼科医による治療は抗生物質含有ステロイド眼軟膏(ネオメドロール眼軟膏®)や抗生物質軟膏(タリビット眼軟膏®)の処方です. これに対して,アメリカの眼科医による治療は第1に瞼縁を清潔にし(温罨法と眼瞼スクラブ), 第2に抗生物質の点眼(エコリシン®,オフサロン®,コリナコール®),軟膏(エコリシン®),或いは内服(テトラサイクリン系(ビブラマイシン®)やマクロライド系(ジフロマック®))が処方されます.特にマイボーム腺機能不全がみられる場合は,テトラサイクリン系の抗生物質の内服です. その理由はテトラサイクリン系の抗生物質はブドウ球菌からのリパーゼの産生を遮断する特徴を持っているからです. テトラサイクリンの副作用として,催奇性と小児期には歯牙黄染があり,小児と妊婦にはエリスロマイシン系の抗生物質が処方されます. ステロイド眼軟膏で症状が軽減することは確かにありますが,発症の機序を考えると,日本の眼科医よりもアメリカの眼科医の治療の方が正しい治療だと考えています.
下図(図3,図4)は眼瞼の腫れと眼脂で某大学病院眼科を通院し,点眼処方がなされましたが半年たっても改善が見られず,当院に来院した患者さんの初診時の状態 (大学病院では感染性結膜炎と診断されていたそうです.)と、当院での指導により温罨法と眼瞼スクラブを行って頂いた1か月後の状態です.当院での治療でほぼ完治の状態になっています.