眼底疾患(加齢黄斑変性・糖尿病網膜症等)に対して

眼底疾患のうち,加齢黄斑変性糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症漿液性網脈絡膜症などの最も頻度の高い疾患に対して,抗VEGF療法とレーザー治療(網膜光凝固術)を行っています.抗VEGF療法は現在、これらの疾患のうち漿液性脈絡網膜症以外の治療で第一選択です.糖尿病網膜症と網膜静脈閉塞症では抗VEGF療法と網膜光凝固術の併用によって,より良い改善と,費用を抑制することが出来ますが,従来型の網膜光凝固術では網膜を損傷し,視力低下,視野障害の合併症がありました.漿液性網脈絡膜症ではこの合併症のために,網膜光凝固術を行うことが出来ない場合がしばしばありました.この網膜損傷を起こさないマイクロパルス・レーザーが登場し,注目されており,当院ではこのマイクロパルス・レーザーであるIQ577 TxCellを導入しました.このIQ577 TxCellには,従来型に見られた痛みを軽減し,時間を短縮するパターン・レーザー機能もあります.このマイクロパルス・レーザー(IQ577 TxCell)によって,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,漿液性網脈絡膜症に対する網膜光凝固術は従来型に比べて,より安全性と有効性が期待できます.特に漿液性脈絡網膜症の第一選択です.

抗VEGF療法(抗血管新生療法)-加齢黄斑変性,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,強度近視

抗VEGF療法の適応疾患は加齢黄斑変性と,糖尿病網網膜症,網膜静脈閉塞症,高度近視です.これらの疾患では,眼底の網膜に新たな血管(新生血管)が必要以上に作られたり,血管外に血液を流出させることによって眼底の網膜が損傷され,視力低下,視野障害が出現しています.この新生血管を作ったり,血管外に血液を流出させる時に,血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) と呼ばれる,新生血管を作るタンパクが関与しています.抗VEGF療法では,このVEGFの効果を抑える薬(抗VEGF薬、商品名アイリーア或いはルセンティス)を目に注射して,新生血管を収縮させ、網膜の浮腫(黄斑浮腫)を軽減させて視力,視野を改善させます.注射ですのですぐに終わります.もちろん日帰りです.

まず、目の周りと目を洗い、その後、麻酔薬を点眼します。
1.まず、目の周りと目を洗い、その後、麻酔薬を点眼します。
器具を使って目を開けます。
2. 器具を使って目を開けます。
白目の部分に注射針を刺し、眼の中に抗VEGF薬を注射します。 注射針が入る感覚はありますが、痛みはほとんどありません。
3.白目の部分に注射針を刺し、眼の中に抗VEGF薬を注射します。 注射針が入る感覚はありますが、痛みはほとんどありません。
注射後に抗菌薬を点眼します。
4.注射後に抗菌薬を点眼します。


抗VEGF薬注射による眼底の網膜のイメージ.抗VEGF薬を注射することによって,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症などで出現した異常血管と腫れ(浮腫)が軽減され,視力,視野が改善されます.

a-VEGF
抗VEGF硝子体注射により、眼底の異常血管と腫れ(浮腫)が軽減され、視力、視野が改善される。

抗VEGF療法の費用

抗VEGF療法は薬品が高額でルセンティス®は157,776円,アイリーア®は,138, 653円の価格ですが,何れも健康保険の対象であるため,費用(1回毎)は以下の通りです.

・70歳未満の方(3割負担) 4万円台

・70歳以上の方(1割負担) 1万8千円

1〜3割の一部負担金であっても,医療費が高額である場合などは,患者さんにとって大きな負担になります.その負担を軽減するために,『高額療養費制度』があります.一月あたりの一部負担金の限度額(自己負担限度額といいます)は,年齢,所得ごとに定められています.→高額医療費制度について

問題点として,多くは1回の治療で完治するわけではないことです.例えば,加齢黄斑変性では,1ヶ月毎に3回注射を行い,その後も眼底の状態を診ながら,注射の追加が必要になります.薬剤が高いために,注射する毎に上記の費用がかかります.

網膜光凝固術(パターン・レーザー)-糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,網膜動脈閉塞症

糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症網膜動脈閉塞症では眼底の網膜の血管が閉塞する疾患では網膜に新しく異常な血管(新生血管)が出現しやすくなります. この新生血管はもろく,血液が漏れたり,異常な組織が形成されることによって,視力低下,視野障害,眼圧上昇(新生血管緑内障)が起こり得ます. 網膜光凝固術は新生血管を抑制し,悪化を食い止めます.

これらの疾患では,網膜光凝固術でレーザーを網膜周辺部に数百発~数千発照射します.従来型のレーザーでは,1発毎に照射するために,時間がかかり,また,痛みを感じることがあります.この副作用を軽減するために,レーザーを複数の照射部位に,ほぼ同時に照射する事によって,時間を短縮し,各照射部位にはパルス状にレーザーを照射することによって網膜の熱損傷の軽減することによって痛みを軽減するパターン・レーザーと呼ばれるレーザーがあります.当院のIQ577 TxCellにはこのパターン・レーザーがあります.

黄斑部への網膜光凝固術(マイクロパルス・レーザー)-糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,漿液性網脈絡膜症

網膜光凝固術はレーザーを組織に照射することによって,組織の変性を引き起こします.これらは従来型のレーザー機器(グリーンレーザーなど)でもできますが,副作用として組織に熱損傷を残します.この副作用のために,網膜の最も大切な黄斑部分に対しては従来型のレーザーを照射することが出来ません.これに対して,マイクロパルス・レーザーではパルス状にレーザーを照射させることによって,冷却時間を与えることによって,組織に損傷を残せず,網膜疾患では最も大切な黄斑部にもレーザー照射が可能です.特に糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症でみられる黄斑浮腫と漿液性網脈絡膜症では黄斑部にマイクロパルス・レーザーによる網膜光凝固術を行うことによって視覚改善が期待され,世界的に注目されています.

レーザー治療の費用

上で述べたレーザー治療の費用は従来型、パターン・レーザー、マイクロパルス・レーザーで同一です.

・70歳未満の方(3割負担) 4万円台

・70歳以上の方(1割負担) 1万8千円

レーザー治療では,3か月以内でレーザーを追加してもレーザー治療の費用は掛かりません.また,抗VEGF療法で述べた通り,その負担軽減のために,『高額療養費制度』があります.