低眼圧緑内障の機序
緑内障の治療は眼圧低下が基本だ。眼圧を下げることによって、視野障害の進行を抑制できることが統計学的に分かっている。しかし、眼圧が低く、眼圧が正常眼圧よりも低くても視野障害が進行する患者さんが存在する。
緑内障の機序として、以下が考えられている。
一次要因:
網膜神経節細胞(RGC)の軸索が視神経乳頭で、押されて損傷を受け、脳で産生されたneurotrophin (NT) の逆行性輸送が阻害され、RGCが死ぬ (アポトーシス)。[RGCは網膜から脳の外側膝状体 (LGN)まで到達している]
二次要因:
① 創傷したRGCから、グルタミン酸、endothelin, TNFαが放出され、gliosisが起きる。(gliosis: 損傷したCNSで起こるastrocyteの増生)[グルタミン酸、endothelin、TNFαはRGCの死に関与していると考えられている。]
② 視神経乳頭における虚血、低酸素によって、astrocyteからグルタミン酸、endothelin-1 (ET-1)、TNFαが放出され、神経変性を引き起こす。
眼圧が低下し、一次要因が解除されても、残存したRGCが死のプロセスから解除されず、さらに視野障害が進行する症例がある。この症例では二次要因の物質は創傷されたRGCから放出されるだけではなく、他の原因によって持続的に放出されるためだと考えられる。このRGCのアポトーシスを持続的に引き起こす二次要因として、フリーラジカル、グルタミン酸excitotoxity、栄養素の消失が考えられている。
グルタミン酸excitotoxity
Excitotoxity: グルタミン酸、アスパラギン酸が受容体に過剰刺激を行い、神経毒性、神経変性を引き起こす。
グルタミン酸は脳内及び網膜での主要な興奮性神経伝達物質で、脳内には興奮性神経伝達物質として、グルタミン酸、アスパラギン酸が、抑制性神経伝達物質としてGABA、グリシン、タウリンがある。グルタミン酸は血液脳関門によって遮断され、脳内で作られる。グルタミン酸合成の一つがグルタミン-グルタミン酸サイクルで、グルタミン酸がグリア細胞(astrocyte)に取り込まれ、グルタミンに変換され、グルタミンがneuronに再吸収されneuron内でグルタミン酸に再転換され、synapse junctionに放出される。グルタミン酸はPost-synapse膜にあるグルタミン酸受容体に結合する。グルタミン酸受容体はイオンチャンネル型と代謝調節型の二種類に分けられる。イオンチャンネル型受容体はligand依存型チャンネルで、グルタミン酸と類似なagonistが結合するとCaとNaイオンを通過させる。代謝調節型受容体はG蛋白共役受容体でligand結合と細胞内情報伝達を連結させ、cAMP、細胞内Caなどの二次メッセンジャーに伝達される。
Excitotoxicityはイオンチャンネル型によって起こる。イオンチャンネル型には選択的agonistによってNMDA受容体、AMPA受容体、カイニン酸受容体等のsubtypeがある。このうち、NMDA受容体の活性化はシナプス可塑性に重要で、記憶と学習で重要な役割を果たしているが、過剰刺激では細胞内Caが上昇し、神経損傷を引き起こす。
グルタミン酸は網膜で光受容体→双極細胞→RGCの経路で主要な神経伝達物質であるが、グルタミン酸が異常に上昇すると網膜損傷の原因となる。グルタミン酸ナトリウムを摂取したマウスで「inner retinal neuron」の消失がみられ、これが、緑内障でグルタミン酸excitotoxicityがみられるとの仮説の基礎になっている。
グルタミン酸excitotoxicityは脳外傷、脳梗塞、癲癇、Huntington病、ALS、AIDS痴呆症でも見られる。細胞内Ca上昇がグルタミン酸excitotoxicityを引き起こす主要なメカニズムだと考えられている。生理的にはNMDA受容体が活性化されるとCaが細胞内に流入され、細胞膜、細胞内、ミトコンドリアにあるCaポンプによって、細胞外に流出され恒常性が保たれている。
神経保護(neuroprotection)
神経を保護する神経保護物質が研究されているが、多くは前臨床段階で神経保護を示す結果が得られていない。臨床試験で有効性があるとされたのはALSに対するriluzole、Alzheimer病に対するmemantine (NMDA受容体antagonist)、低眼圧緑内障に対するbrimonidine (商品名:アイファガン、交感神経α2 agonist)の3つに過ぎない。
Brimonidine(商品名:アイファガン)(交感神経α2 agonist)
虚血性視神経障害患者に対するbrimonidine投与群と非投与群間に有意差はなかった。しかし、低眼圧緑内障でbrimonidine投与群はチモプトール投与群に比べ、視野障害の進行抑制が認められた。
α2 受容体は虹彩、網様体に存在しており、brimonidineは房水産生を抑制することによって眼圧低下を引き起こす。これ以外に、グルタミン酸excitotoxity、酸化ストレス、低酸化を受けているマウスのRGCの生存率を向上する効果があり、神経保護効果があると考えられている。
Brimonidine以外に、緑内障における神経保護効果として
・Ca channel blocker、
・抗exitotoxicity、
・neurotrophin、
・endothelin antagonist、
・TNF antagonist、
・Sigma-1受容体angatonist
が期待されている。
これらのうち、Ca channel blocker、抗exitotoxicity、及び、最近神経保護があるのではないかとされている、statin (HMG-CoA還元酵素阻害薬)について別項。
(livedoor akiastroのblogで2012年11月17日に投稿)